「子どもが手を離れて、自分のための時間ができた」「学生のころは、絵を描くのが好きだった」。そんなきっかけから、50代で絵を描いてみたいと考えている方もいらっしゃいます。60代になってから、初めて絵筆を手に取る方もいらっしゃいます。

この記事では、50代・60代から絵を描く趣味を始めたい方に向けて、7つの画材と4つの習い方を比べます。比べる観点は、描く場所や片付け、続けやすさです。上手に描けるかどうかより、描く時間を楽しめるかどうかに目を向けて整理しています。

なお、特定の教室・講座・画材メーカーの紹介はしていません。気になる画材や習い方が見つかったら、店頭や各教室・講座の案内で詳しく確かめてみてください。

50代から「絵を描いてみたい」と感じるとき

絵を描いてみたいと思うきっかけは、人によってさまざまです。このセクションでは、考えられる場面と、昔描いていた方・初めて描く方それぞれの始め方の違いを見ていきます。あわせて、同年代でどのくらいの方が絵を描いているのかを、国の統計で確かめます。

絵を描いてみたいと思うきっかけ

きっかけとして考えられる場面を、いくつか挙げます。

  • 子どもの独立や仕事の区切りで、自分のために使える時間ができたとき
  • 展覧会や旅先で見た風景を、写真とは別の形で残したいと思ったとき
  • 実家の片付けで、昔描いた絵やスケッチブックが出てきたとき
  • 仕事や家族の介護の合間に、短い時間でも一人で集中できることを探しているとき

どのきっかけから始める場合でも、最初に用意するものを鉛筆と紙だけにする方法があります。道具は、描きたいものが見えてきてから少しずつ増やしても間に合います。

昔描いていた方と、初めて描く方の始め方の違い

学生時代に水彩や油絵を描いていた方は、当時使っていた画材から再開する方法があります。手元に道具が残っている場合は、最初に状態を確かめておくと安心です。絵の具が固まっていないか、筆の毛が傷んでいないかを見ておきます。

初めて描く方は、鉛筆や色鉛筆のように、準備と片付けが少ない画材から始める方法があります。水や画用液を使う画材は、描くこと自体に慣れてから試す方法もあります。

「昔の自分は何を描くのが好きだったか」を思い出してみると、題材や画材を選ぶ手がかりになります。

関連記事:50代からの趣味探しのための「自分の棚卸し」

統計で見る、50代・60代で絵を描いている方

総務省統計局の「令和3年社会生活基本調査」(2021年実施)では、趣味・娯楽の種類の一つとして「絵画・彫刻の制作」を調べています。この活動を、2020年(令和2年)10月20日〜2021年(令和3年)10月19日の1年間に行った人の割合を、行動者率といいます。女性の行動者率は次のとおりでした。

年齢女性の行動者率(絵画・彫刻の制作)
50〜54歳2.4%
55〜59歳2.2%
60〜64歳2.3%
65〜69歳2.6%

出典:総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」調査票Aに基づく結果 生活行動編(全国)表30-2-2「男女,ふだんの健康状態,頻度,年齢,趣味・娯楽の種類別行動者率(10歳以上)-全国」。調査は2021年(令和3年)10月20日現在で実施され、結果は2022年8月31日に公表されています(2026年10月6日確認)。ふだんの健康状態・頻度は、いずれも「総数」の値です。

この数字は、1年間に1回でも絵画・彫刻の制作をした人の割合です。続けている人の割合や、上手に描ける人の割合ではありません。彫刻も含まれます。また、2021年に行われた調査のため、その後の変化はこの数字からは分かりません。

数字のうえでは、50代・60代の女性で1年間に絵画・彫刻の制作をした方は、どの年代も2%台でした。身近に絵を描く同年代が見当たらないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。教室や地域の講座では、同じように描き始めた方と出会える場合もあります。習い方は、このあとのセクションで紹介します。

絵を描く趣味の4つの楽しみ

絵を描くことは、健康や脳のための手段として紹介されることもありますが、この記事ではその立場をとりません。描いている時間そのものを楽しむ趣味として、4つの楽しみ方を紹介します。感じ方は人それぞれなので、ご自身に合いそうなものを探してみてください。

① 描いているあいだ、目の前のものに向き合う時間

絵を描いているあいだは、線の向きや色の重なりに気持ちが向きます。ほかのことを考えずに過ごせると感じる方もいらっしゃいます。家事や仕事の合間の15分でも、自分のためだけの時間にできます。

描き終えたときに「今日はこれを描いた」と思える小さな区切りがあることを、楽しみにしている方もいらっしゃいます。

② 見慣れたものの色や形に気づく

描こうとして身の回りのものをよく見ると、毎日使っているカップの縁の丸みや、窓から入る光の色に気づくことがあります。絵を描く時間が、ふだんの景色を見直すきっかけになる場合もあります。

散歩の途中で「この花の色を描いてみたい」と立ち止まるのも、絵を描く趣味ならではの楽しみ方です。

③ 描いたものが手元に残る

描いた絵は、スケッチブックやファイルにたまっていきます。日付を書いておけば、季節の移り変わりや、その日に何を見ていたかを後から見返すことができます。

はがきに描いた季節の花を、友人への便りに添える方もいらっしゃいます。自分で描いたものを、誰かに渡す楽しみ方もあります。

④ 教室や展覧会で、人と作品を見せ合う

教室やサークルでは、同じ題材を描いても一人ひとり仕上がりが違います。その違いを見比べる楽しさがあります。ほかの方の色の選び方から、自分の絵のヒントを得ることもあります。

地域の作品展などに出品する機会がある教室やサークルもあります。人に見せることが目標になる方もいれば、一人で描くことを楽しむ方もいらっしゃいます。どちらの楽しみ方を選んでもかまいません。

50代から始められる7つの画材

画材によって、用意するもの、描く場所、片付けの手間、匂いの有無が変わります。まず7つの画材を表で比べ、そのあと一つずつ特徴を紹介します。価格は店や商品によって幅があるため、この記事では金額を載せていません。

画材準備するものの例描く場所と片付け始める前に確かめたいこと
① 鉛筆・ペン鉛筆(鉛筆削りも)またはペン、消しゴム、スケッチブックなど机ひとつで描ける。片付けは道具をしまうだけ鉛筆の濃さ、ペンのインクの種類
② 色鉛筆色鉛筆、鉛筆削り、スケッチブックなど(水彩色鉛筆の場合は筆と水入れも)机ひとつで描ける。水彩色鉛筆で水を使った場合は、水入れと筆も片付ける色数、水彩色鉛筆かどうか
③ 水彩絵の具絵の具、筆、パレット、水入れ、筆を拭く布、紙(水を多く使う場合は水彩紙)など水を使うため、机に汚れてもよい敷物があると安心透明水彩か不透明水彩か、紙の種類
④ パステル・クレヨンパステルまたはクレヨン、画用紙など粉が出るタイプのパステルは、手や机が汚れやすい。オイルパステルやクレヨンも、手や服に色がつくことがある粉が出るタイプかオイルパステルか。粉が出るタイプは、粉を吸い込まない工夫と、仕上げの定着の方法
⑤ アクリル絵の具絵の具、筆、パレット、水入れ、筆を拭く布、紙やキャンバスなど水で溶いて使うが、乾くと水に溶けなくなるため、筆やパレットは乾く前に洗う乾くのが早いこと
⑥ 油絵の具絵の具、筆、パレット、キャンバス、布など(画用液を使うタイプは画用液も)画用液を使う場合は、使うあいだ換気が必要。乾くまでに時間がかかるため、作品を置いておく場所もいる画用液を使うタイプか、水で溶いて使えるタイプか。匂いと換気、火気、油が付いた布や紙の処理と捨て方
⑦ タブレット(デジタル)ペン入力に対応した端末、端末に合うペン、お絵かきアプリ机ひとつで描け、絵の具の片付けはない端末・ペン・アプリの組み合わせ、画面を見る時間

このほか、墨で描く水墨画、植物の形を細かく写し取るボタニカルアート、はがきに描くはがき絵などもあります。気になる画材が表にない場合も、選び方の考え方は同じです。

① 鉛筆・ペン

鉛筆やペン1本と紙があれば描き始められる、準備がとても少ない画材です。鉛筆は濃さによって線の表情が変わり、消しゴムで描き直すこともできます。

ボールペンや万年筆など、ふだん使っているペンで描く方法もあります。消せない線は思い切りが必要ですが、そのぶん線の勢いがそのまま残ります。ペンで描いた線の上から水彩で色を塗る場合は、水でにじみにくいインクかどうかを製品の表示で確かめておきます。

スケッチブックは、持ち歩ける小さめのサイズから選ぶと、外出先でも描きやすくなります。

② 色鉛筆

色鉛筆は、鉛筆と同じ感覚で色を塗り重ねられる画材です。力の入れ方で色の濃さが変わります。少ない色数でも、重ね方によって色の幅が広がります。

水彩色鉛筆を選ぶと、水彩画のようなにじみも楽しめます。塗ったあとに、水を含ませた筆でなぞる使い方です。水を使わずに、ふつうの色鉛筆として使うこともできます。

色数が多いほど選べる色は増えます。最初は少ない色数のセットから始めて、足りない色を後から1本ずつ買い足す方法もあります。

③ 水彩絵の具

水彩絵の具は、水の量で色の濃さやにじみ方が変わる画材です。水彩絵の具には透明水彩と不透明水彩があり、仕上がりの印象が異なります。透明水彩は下の色が透けて見え、不透明水彩は重ねると下の色を隠せます。

紙の種類によっても絵の具のなじみ方が変わります。水を多く使う描き方をする場合は、水彩用の紙を選ぶ方法があります。

小さな絵の具のセットと水筆(柄の中に水を入れられる筆)を持って、旅先や散歩先でスケッチする楽しみ方もあります。

④ パステル・クレヨン

パステルには、粉が出るタイプ(ソフトパステルなど)と、油分を含み粉が出にくいオイルパステルがあります。粉が出るタイプは、指や布でこすってぼかしながら、やわらかい色の重なりを作れる画材です。粉が出やすいため、机に敷物を用意し、描き終えたら手を洗えるようにしておくと安心です。

粉は、汚れだけでなく、吸い込まないことにも気をつけます。ソフトパステルを使うときに防じんマスクの着用を案内している画材メーカーもあるため、使う製品の注意表示を確かめてください。

粉が出るタイプのパステルで描いた絵は、こすれると色が落ちることがあります。仕上げに定着用のスプレー(フィキサチーフ)を吹き付けて、画面を保つ方法があります。スプレーのガスには燃えやすいものもあるため、火の気のない場所で、換気をよくして使います。マスクの着用など、そのほかの注意は製品の注意表示に従ってください。

クレヨンは、子どものころに使った記憶のある方もいらっしゃる、身近な画材です。クレヨンやオイルパステルは、粉が出るタイプのパステルに比べて粉は出にくいものの、手や服に色がつくことがあります。

⑤ アクリル絵の具

アクリル絵の具は、水彩絵の具と同じように水で溶いて使う画材です。乾くのが早く、乾いたあとは水に溶けなくなるため、上から色を重ねやすい特徴があります。

一方で、筆やパレットについた絵の具も乾くと落ちにくくなります。描いている途中でも、使い終わった筆はこまめに水で洗い、パレットの絵の具が乾かないように気をつけます。服についた場合も落ちにくいため、汚れてもよい服やエプロンを用意しておくと安心です。

紙のほか、キャンバスなどにも描けます。水彩から少し違う表現を試したい方の選択肢にもなります。

⑥ 油絵の具

油絵の具は、絵の具を厚く盛ったり、何度も塗り重ねて直したりできる画材です。表面が乾くまでに時間がかかるため、描きかけの絵を置いておく場所が必要です。

油絵の具には、テレピンやペトロールなどの画用液で溶いたり、筆を洗ったりして使うものがあります。水で溶いて使えるように作られた油絵の具もあり、使う画用液や筆の洗い方は製品によって違います。

画用液には匂いがあり、揮発しやすく火がつきやすいものもあります。画用液を使うあいだは部屋の換気をよくし、火の気のある場所では使わないようにします。取り扱いは、それぞれの製品の注意表示に従ってください。

もう一つ気をつけたいのが、絵の具や油を拭き取った布や紙です。油絵に使うリンシードオイルやポピーオイルなどの植物油は、乾くときに酸化反応による熱を出します。この熱が布や紙の中にたまると高温になり、近くに火がなくても自然発火するおそれがあります。乾燥を早めるための添加剤(シッカチフ)を混ぜた油が付いたものは、とくに注意が必要です。

独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)も、油が浸みた布類や紙類は空気中の酸素と反応して発熱しやすく、気温が高い時期はとくに注意が必要だとしています。そのうえで、油分が付いた布類や紙類を、水に浸さないまま袋や容器に入れて放置しないよう呼びかけています(2025年7月8日発表・2026年10月6日確認)。拭き取った布や紙の処理と捨て方は、製品の注意表示と、お住まいの自治体のごみの出し方で事前に確かめておいてください。

同居するご家族がいる場合は、匂いのことも含めて、描く場所を相談しておくと安心です。

⑦ タブレット(デジタル)

タブレットにお絵かきアプリを入れ、端末に合うペンで描く方法です。色を作る準備や片付けがなく、描き直しもしやすいのが特徴です。

ペンが使えるかどうか、どのペンが使えるかは端末によって違います。購入する前に、端末・ペン・使いたいアプリの組み合わせが合っているかを確かめてください。確認先は、販売店や各メーカーの案内です。

画面を見続ける時間が長くなることもあるため、ときどき手を止めて目を休めながら描きます。

絵の習い方は4つ|独学・通信講座・絵画教室・地域の講座

絵の習い方は、次の4つです。独学、通信講座・オンライン講座、絵画教室・アトリエ、公民館などの地域の講座・サークルです。どれが合うかは、生活のリズムや、作品を誰かに見てもらいたいかどうかで変わります。表で比べたあと、それぞれの特徴と、始める前に確かめたいことを紹介します。

習い方進め方日時の自由さ作品を見てもらう機会始める前に確かめたいこと
独学(本・動画)本や動画を参考に、自分で進める自分で決められる講師に見てもらう機会はない。家族や知人に見てもらうことはできる何を参考にするか、続ける工夫
通信講座・オンライン講座教材や動画で学ぶ。課題を提出して添削を受ける講座もある自分のペースで進めるものと、決まった日時に参加するものがある添削やアドバイスの有無と回数は講座による添削の有無と回数、受講期間、費用
絵画教室・アトリエ教室で講師に教わりながら描く曜日・時間が決まっているものと、チケット制などで日時を選べるものがあるその場で講師に見てもらえる。見てもらう頻度は教室による体験の有無、振替、画材費と持ち物
地域の講座・サークル公民館などの講座や、サークルで仲間と描く開催日時は講座やサークルごとに決まっている講師や仲間に見てもらえる場合がある募集の時期、参加の条件、費用

独学(本・動画)

独学は、好きなときに好きな題材を描ける進め方です。描きたい画材の入門書や動画を参考に、自分のペースで進められます。

一人で進めるため、迷ったときにすぐ聞ける相手はいません。自分のペースで進められるので続けやすいと感じる方もいれば、一人だと手が止まりやすいと感じる方もいらっしゃいます。

独学で続けたい方は、描いた日付を書いておき、月に1回まとめて見返す日を決めておく方法があります。自分の変化に気づくきっかけになります。

通信講座・オンライン講座

通信講座・オンライン講座は、自宅で教材や動画を見ながら学べる進め方です。課題を提出して、講師から添削やアドバイスを受けられる講座もあります。

添削の有無と回数、受講期間、費用、教材に画材が含まれるかどうかは、講座ごとに違います。申し込む前に、講座の案内で内容を確かめておくと安心です。途中でやめる場合の条件も、あわせて見ておきます。

決まった日時にオンラインでつないで、講師と画面越しにやりとりする講座もあります。外出が難しい時期でも、人とつながりながら描ける方法の一つです。

絵画教室・アトリエ

絵画教室・アトリエは、講師にその場で見てもらいながら描ける進め方です。大人が絵画教室に通うメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

  • 描いている途中で、講師に直接アドバイスをもらえる
  • 教室によっては、自分では持っていない画材を試せる
  • 同じ時間に描く人がいる教室では、作品を見せ合える
  • 通う日が決まることで、描く時間を確保しやすいと感じる方もいらっしゃる

一方で、教室ごとに通い方や費用の仕組みが違います。申し込む前に、次の点を確かめておくと安心です。

  • 体験レッスンがあるか
  • 曜日・時間が固定か、チケット制などで日時を選べるか
  • 休んだときの振替ができるか、その条件
  • 月謝のほかに、画材費や教材費がかかるか、持ち物は何か
  • 1つのクラスの人数と、扱っている画材(水彩中心か、油絵もできるかなど)
  • 教室までの道のりと、画材を持ち運ぶ必要があるか

地域の講座・サークル

公民館や生涯学習センターなどでは、絵画の講座が開かれている場合があります。お住まいの自治体の広報誌や、公民館の案内を見て探す方法があります。

講座の終了後に、参加者どうしでサークルとして描き続けるケースもあります。費用や募集の時期、参加の条件は講座ごとに違うため、案内で確かめてください。

画材と習い方を選ぶ5つのチェックポイント

画材と習い方は、描きたいものだけでなく、暮らしの条件とも照らし合わせて選んでおくと安心です。ここでは、選ぶ前に確かめておきたい5つの観点を紹介します。

① 描く場所と片付け

食卓で描くのか、専用の机を用意できるのかで、選びやすい画材が変わります。食卓で描く場合は、描き終えたらすぐに片付けられる鉛筆や色鉛筆が取り入れやすい画材です。水彩の場合は、敷物を用意しておくと安心です。

描く時間だけでなく、準備と片付けにかかる時間も含めて考えておきます。始めてから「思ったより大変だった」と感じることを減らせます。

② 匂い・汚れ・換気

注意したい点は、画材ごとに違います。

  • 油絵の具:画用液を使うあいだは換気をし、火の気のある場所では使わない。絵の具や油を拭き取った布や紙は、自然発火のおそれがあるため、そのまま置いておかない
  • 粉が出るタイプのパステル:粉を吸い込まないように気をつけ、敷物を用意し、描き終えたら手を洗う
  • 定着用のスプレー:火の気のない場所で、換気をして使う
  • アクリル絵の具:乾くと落ちにくいため、服や机を汚さないようにする

ここに挙げたのは画材ごとの注意点の一部です。実際に使う画材は、それぞれの製品の注意表示を確かめてください。

③ 手元の見やすさと姿勢

50代・60代になって、手元の細かいところが見えにくく感じる方もいらっしゃいます。明るい照明や手元を照らすライト、拡大鏡を使う方法があります。机と椅子の高さを合わせることも、前かがみの姿勢が続かないようにする工夫の一つです。

ときどき手を止めて、絵を少し離れたところから眺めてみてください。姿勢を変えるきっかけになり、全体の形も確かめやすくなります。

描いている途中で手首・肩・目に痛みや違和感があるときは、無理をせずに休んでください。痛みや違和感が続く場合は、医療機関に相談してください。

④ 続けられる頻度と時間

1回にどのくらいの時間を取れるかで、合う画材と習い方が変わります。15分ほどの短い時間なら、準備の少ない鉛筆や色鉛筆が取り入れやすい画材です。まとまった時間が取れる日には、水彩や油絵を広げて描く方法もあります。

仕事や家族の介護で予定が読みにくい方は、日時を自分で決められる独学から始める方法があります。自分のペースで進める通信講座も選択肢です。決まった日に人と描きたい方は、教室や地域の講座が選択肢になります。

⑤ 費用は小さく始めて確かめる

最初から道具を一式そろえるより、1つの画材の、色数の少ないセットから始める方法があります。価格は店や商品によって幅があるため、店頭や販売店の案内で確かめてください。

教室や講座では、月謝や受講料のほかに、画材費・教材費などがかかる場合があります。申し込む前に、何にいくらかかるかを案内で確かめておくと安心です。

「絵が苦手」と感じたとき|つまずきやすい4つの場面と回避策

「絵が苦手」「下手だから人に見せられない」と感じて、始める前や始めたあとに手が止まる方もいらっしゃいます。この記事では、上手に描けるかどうかより、描く時間を楽しめるかどうかに目を向けます。そのうえで、つまずきやすい場面と、その場面での考え方を4つ紹介します。

いきなり上手に描こうとする

最初の1枚から完成度の高い絵を目指すと、思いどおりにならないことが気になります。描くのが苦しくなることもあります。

「1枚10分」のように時間を決めて、時間が来たら途中でも終わりにする方法があります。途中でやめた絵も、捨てずに残しておきます。後から見返したときに、描いた時間そのものが記録として残ります。

道具を最初から揃えすぎる

画材を一度にたくさん揃えると、使わない道具が増えたり、片付けが負担になったりすることがあります。

まずは1つの画材で何枚か描いてみます。「もう少しこんな色がほしい」「にじませてみたい」と感じてから、次の道具を足していく方法があります。

人の作品と比べてしまう

SNSや教室で上手な作品を目にすると、自分の絵と比べて落ち込むこともあります。

比べる相手を、ほかの方ではなく、前に描いた自分の絵にしてみる方法があります。日付を書いた絵を並べると、少しずつの変化に気づくことがあります。描くこと自体が楽しめなくなったと感じるときは、趣味との距離の取り方を見直してみるのも一つの方法です。

関連記事:「趣味が楽しめなくなった」その原因とは?

描く間があいて、再開しにくくなる

仕事や家族の予定で数週間描けない時期が続くと、もう一度始めるきっかけがつかみにくくなることがあります。

再開の1枚は、10分ほどで描ける小さなものにすると、手を動かすまでのハードルが下がります。スケッチブックと鉛筆を、目につく場所に出したままにしておく方法もあります。描く時間が取れないことにもやもやするときは、時間との向き合い方を考えてみるのも一つです。

関連記事:趣味の時間が取れないストレスとの向き合い方

今日から始められる4つの小さな一歩

道具を揃える前でも、今日からできることがあります。ここでは、手元にあるもので始められる一歩を4つ紹介します。7つの画材のうち、鉛筆や色鉛筆を使うものが中心です。

身近なものを1つ、鉛筆で描く

コーヒーカップや果物、花瓶の花など、身近なものを1つ選んで鉛筆で描いてみます。10分ほどで終わる大きさの紙に、形を追うつもりで描くだけでもかまいません。

線が曲がったり、形がずれたりしても、そのままにしておきます。描き終えたら、日付を書いておきましょう。

写真や絵はがきを見て描いてみる

目の前にものがなくても、写真を見ながら描くことができます。自分で撮った旅先や庭の写真は、そのときの記憶もあって描きやすい題材です。

ほかの方が撮った写真や、画家の作品を手本にして描く場合は注意が必要です。描いた絵を人に見せたり公開したりするときに、気をつけたいことがあります。くわしくは「よくある疑問」で紹介します。

塗り絵・なぞり絵から始める

下絵がある塗り絵やなぞり絵は、形をとるのが苦手な方でも、色を選んで塗るところから始められます。色鉛筆の塗り重ね方に慣れる練習にもなります。

塗り絵の本や配布されている下絵には、使い方の決まりが書かれている場合があります。コピーしてよいかどうかなどを、使う前に確かめておくと安心です。

美術館や展覧会で作品を見る

描く前に、描かれた作品を見に行くのも一つの一歩です。近くで見ると、筆の跡や紙の質感まで分かります。「この色の重ね方を試してみたい」と思うきっかけになることがあります。

地域の作品展では、身近な方が描いた作品を見られる場合もあります。どんな題材を描いているかを見るだけでも、自分が描きたいものを考えるヒントになります。

よくある疑問

50代・60代から絵を描く趣味を始めるときの疑問のうち、5つにお答えします。

Q:60代から始めても、上達しますか?

上達のしかたや早さは、人それぞれです。描く頻度や習い方、何を「上達」と考えるかによって変わります。60代だからという理由だけで、上達するかどうかが決まるわけではありません。

前に描いた絵と見比べられるように、日付を書いて残しておくと、少しずつの変化に気づきやすくなります。

Q:絵を描くことは、脳の活性化や認知症予防になりますか?

この記事では、絵を描くことを健康や脳のための手段としては紹介していません。医学的な効果を約束することはできないためです。

もの忘れや体調について気になることがある場合は、自己判断せず、医師にご相談ください。絵を描くことは、描いている時間そのものを楽しむ趣味として取り入れてみてはいかがでしょうか。

Q:塗り絵は、絵を描く趣味の入口になりますか?

下絵があるため、形をとるのが苦手な方でも、色を選んで塗るところから始められます。色鉛筆や水彩色鉛筆の扱いに慣れるきっかけにもなります。

塗り絵を続けるうちに、自分で下絵を描いてみたくなる方もいらっしゃいます。そのときは、鉛筆で身近なものを描くところから始めてみてください。

Q:描いた絵をSNSに載せたり、公募展に出したりしてもいいですか?

自分で考えて描いた絵であれば、公開するかどうかはご自身で決められます。注意したいのは、ほかの方の作品や写真を手本にして描いた絵です。

著作権法第30条は、私的使用を目的とする場合に、著作物を複製することを認めています(e-Gov法令検索・2026年10月6日確認)。私的使用とは、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」です。手本にした作品や写真の模写を、自宅で練習として描くことと、SNSなど誰でも見られる場所に載せることは、分けて考える必要があります。文化庁は、「模写」をネットに公開するなら原則として許可を取ることが必要だと説明しています。お金を得る目的でなくても、この点は変わらないとしています(文化庁「著作権について知っておきたい大切なこと」・2026年10月6日確認)。載せたい場合は、作品や写真の権利を持つ方の許諾を得てください。作者がガイドライン(利用ルール)を出している場合は、その内容と、公開が認められている範囲を確かめます。

公募展に出す場合、応募できる作品の条件や出品料の有無、応募の方法は、公募ごとに異なります。気になる公募があれば、主催者の募集要項で確かめてください。

Q:描くものが思いつかないときは?

身の回りのものから選ぶ方法があります。季節の花や野菜、食卓の器、散歩の途中で撮った写真、長く使っている道具などです。

「今月は庭やベランダの植物」「来月は台所の道具」のように、1か月ごとにテーマを決めておくと、毎回題材を考える手間が減ります。

まとめ

この記事では、50代・60代から絵を描く趣味を始めたい方に向けて、画材と習い方の選び方を紹介しました。

主なポイントは次のとおりです。

  • 画材は、描く場所・片付け・匂いの面からも選ぶ。最初は、鉛筆や色鉛筆など準備の少ない画材から始める方法もある
  • 習い方は、独学・通信講座・絵画教室・地域の講座の4つ。作品を見てもらいたいかどうかと、日時の自由さで選ぶ
  • 上手に描けるかどうかより、描く時間を楽しめるかどうかに目を向ける

言葉で表す創作に興味がある方は、短歌という選択肢もあります。

関連記事:「短歌を習いたい人」必見!初心者におすすめの学び方

音で表す趣味が気になる方は、楽器の選び方もあわせてご覧ください。

関連記事:50代から始められる楽器は?音と練習場所で選ぶ8つの候補

まずは、テーブルの上のカップを1つ、鉛筆で描いてみてはいかがでしょうか。


※本記事は、絵を描く趣味についての一般的な情報の提供を目的としており、健康や医学的な効果効能を保証するものではありません。描いている途中で手首・肩・目などに痛みや違和感がある場合は、無理をせず中断してください。続く場合は医療機関にご相談ください。

※画材の取り扱いは、それぞれの製品の注意表示に従ってください。

参考資料

50代からの趣味と仕事